
地球から月までの平均距離、38万㎞。
かつてアポロ計画で人類が越えたこの距離をどう渡り、その後どうやって月面へ降りるのか。
そして2025年1月に成立した第2次トランプ政権下で、アルテミス計画の何が変り何が変らないのか。
アルテミス計画の現在を探ります。
人類、再び月面へ
1969年7月20日にアポロ11号が人類初の月面有人着陸を達成してから、56年。
アルテミス計画が辿る月までの道のりは、アポロ計画のルートを踏襲し、更に一歩踏み込んだものとなっているんです。
アポロ計画とアルテミス計画の月へのアプローチ方法を、比べてみました。
アポロ計画 | アルテミス計画 | |
---|---|---|
①打ち上げ | サターンVロケット | SLS(スペース・ローンチ・システム) |
②宙間航行 | アポロ宇宙船 | オライオン[オリオン]宇宙船 |
③月軌道周回 | アポロ宇宙船 | 有人プラットフォームゲートウェイ |
④月面降下 | アポロ着陸船(宇宙船から分離) | スターシップHLS ※スペースX社開発中 |




アルテミス計画では、地球から月軌道まで至るためにSLSやオライオン宇宙船が新設計されていますが、表中①②の月へのアプローチ方法自体は、実はアポロ計画のときと大差ありません。
違っているのは月面へ降下する表中③④の行程。
月の軌道上に到着したオライオン宇宙船は、月を周回する有人拠点ゲートウェイにドッキングし、宇宙飛行士達はここで着陸船スターシップHLSに乗換え、月面へ降下します。
月軌道上や月面上に人間が滞在できる拠点を設ける、というところがアポロ計画との明確な違いであり、「持続的な月探査の実施」というアルテミス計画の目的に適っていますね。 2025年8月現在、SLSとオライオン宇宙船は完成し、2022年には、SLSにより打ち上げられたオライオン宇宙船(無人)が月軌道上を周回し地球へ帰還するという安全性確認のための試験飛行が実施されました【アルテミスⅠ】
アルテミス計画のロードマップ
アルテミス計画の実施スケジュールは、次のとおりです。
2017年12月 | 第一次トランプ政権によりアルテミス計画正式決定 |
2018年後半 → 2022年11月 | 無人のオライオン宇宙船を打ち上げ、月周回軌道上を飛行し地球へ帰還 【アルテミスⅠ】 |
2025年 9月 → 2026年4月 | 有人のオライオン宇宙船を打ち上げ、月周回軌道上を飛行し地球へ帰還 【アルテミスⅡ】 |
2026年9月 → 2027年 | 月南極付近へ有人月面着陸(女性宇宙飛行士含む) 【アルテミスⅢ】 |
2028年 2029年 | ゲートウェイ組立拡充 【アルテミスⅣ】【アルテミスⅤ】 |
2030年代 | 月面基地建設 |
2030年代後半 | 火星有人探査へ |
注目はやはり2027年予定の【アルテミスⅢ】での女性宇宙飛行士を含む有人月面着陸でしょうか。
とくに「人類初の女性宇宙飛行士による月面着陸」という点は、月と狩りの女神アルテミスの名を冠するこの計画を象徴するイベントです。
また、アルテミス計画は50カ国以上の国々が協力する国際プロジェクトということで、米国以外の国の宇宙飛行士たちも、順次月面へ降り立つことが計画されています。
実は2028年予定の【アルテミスⅣ】では、日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ!とアナウンスされていることも、見逃せません。
が。
実施に関しては、結構延期が多いですね…
2019年12月~2023年5月までのコロナ禍によりアルテミスⅠの打ち上げが大幅に遅れたことで全体のスケジュールが後ろ倒しになったのですが、その後も技術的トラブルや スケジュールの再見直しが相次ぎ、2025年8月現在、アルテミスⅡの実施も延期が続いており、その後の予定に関する見通しも分からなくなってきています。大丈夫か…?
アルテミス計画の現在地と展望
第二次トランプ政権による計画刷新
そのような状況の中、2025年1月に第二次トランプ政権が成立し、アルテミス計画に更なる見直しが加えられます。
2025年5月、トランプ政権は2026年度予算教書を公表し、アメリカ航空宇宙局NASAの予算を前年度比60億ドル削減(24%減)し、SLS&オライオン宇宙船はアルテミスⅢで退役、そしてゲートウェイも廃止することを発表しました。マジか…
但し、大幅な予算減と計画変更を進める一方、月有人探査に70億ドル、火星探査に10億ドルをそれぞれ投じるという決定も下しています。 限られたリソースを再配分し、中国より先に月面有人着陸&火星有人探査の達成を優先するという政治戦略なのでしょう。
民間企業頼みの宇宙開発
SLS・オライオン宇宙船というアルテミス計画を支える重要な支柱の代案としては、民間の商用ロケットや宇宙船を利用するそうです。
が、2025年8月現在、月まで運行可能なアメリカの民間有人宇宙船というと、イーロン・マスク率いるスペースXの「スターシップ」のみ。しかも未だ開発中…。
更に、月軌道上から月面への「乗換駅」であるゲートウェイに至っては、計画そのものが終了となると、新たに月着陸機能を盛り込んだ宇宙船が必要となる、ということ。まあ宇宙船も月着陸船もスペースXの「スターシップ」なんだから、機能拡張でなんとかなるだろ!という見通しなんだろうけれど…、なんというかこれもう、ほとんど「振り出しに戻る」じゃん!!
バイデン前大統領に対するトランプ大統領の怨嗟に満ちた意趣返しか、はたまた盟友イーロン・マスク氏との取引に応じた露骨な利益供与か。
トランプ政権の真意は窺い知れませんが、いずれにせよ、NASAは計画の大幅な変更を余儀なくされたことは確か。
どーすんだこれ…?(ざわ…ざわ…)
まとめ
ということで本記事では、アルテミス計画の月までのアプローチ方法とロードマップ、それに現在の状況と展望について紹介しました。
前回の記事で、「アルテミス計画の最大の意義は、人類に未来への希望をもたらすこと」と書きましたが、現実の進捗状況を見てみると、残念ながら実際のアルテミス計画は、米政治の混乱がものの見事に反映され、「人間の身勝手さの象徴」に成り果ててしまったように感じられるかもしれません。
だけどまあ、大概のことは最初の思惑通りになんて進みません。
理想を現実という型に落とし込んでいく過程で、その一部が損なわれたり変更されたりすることは、ある意味必然であり、避けて通ることはできません。
時間は有限、選択肢は酷薄。
その中で、何を切り捨て、何を活かすのか。
残酷で無慈悲な選別をし続けることが人の営みの宿業なら、人の思いと願いの結晶たるアルテミス計画も、その例を免れることはできない定めです。
その視点から改めてアルテミス計画の現在を見直したとき、確かに方法や手段に多少の変更は余儀なくされても、「月面有人着陸を達成し、持続的な月探査を通して地球の未来を切り開く」というアルテミス計画の掲げる理想と希望は、いささかも損なわれてはいない、と言えるのではないでしょうか。
いずれにせよ、計画の進行はまだまだ道半ばどころか、始まったばかり。
この先どんなトラブルが待ち受けているか、分かりません。
だけど、未知への探究心・好奇心がある限り、人間の歩みが止まることはありません。
アルテミス計画がどんな未来を見せてくれるのか、わくわくしながら見守っていきましょう!